司法書士試験も土地家屋調査士試験も、2時間30分の中で択一と記述*2組を解かねばならない点、不足気味の時間設定であることが共通している。
普段なら解けるレベルの問題で大コケしたり、気付いて然るべき論点を見落とす経験は多くの受験生がしていると思う。
それぞれの午後試験で、自分が気を付けてきたことを紹介する。
知っていれば対策できることもあると思うので。
脳にはシステム1とシステム2の二つのモードがある
システム1、システム2というのは、ファスト&スローに出てくる2種類の脳のモード。
システム1は、直感的に素早い判断をする。
発動させようと思わなくても常にシステム1は稼働していて、勝手に判断しようとする。
脳のリソースもほとんど使わず、省エネだが、しばしば間違う。
他方のシステム2は、理性というべき役割。
稼働させるのに努力を要し、出てきてくれればシステム1の誤りをただすことができるけれども、怠け者でリソースも喰う。
「Xシステム」「Cシステム」という表現もある
ちなみに中野信子氏はシステム1とシステム2を「Xシステム」「Cシステム」と表現している。
システム1とシステム2だと覚えにくいからだろう。
人間が何らかの”判断”を下すときには、主に脳の2つのシステムを使っています。
まず1つ目が、ものごとを迅速に判断する「Xシステム」と呼ばれるもの。
Xとは「REFLEX=反射」からとられたもの。
ですので”反射システム”と置き換えて考えてもよいでしょう。
(中略)
そこで注目したいのが、人間が意思決定をする際のもう1つのシステム「Cシステム」です。
Cは「CALCULATE=計算する」のCと考えれば覚えやすいでしょう。
こちらの特徴は、Xシステムに比べるとずいぶんスピードが遅いかわりに、ものごとを慎重に判断できること。引用元:あなたの脳のしつけ方
自分は用語としてはシステム1、システム2で覚えてしまっているので、ここではシステム1とシステム2で説明する。
システム2を呼び出すには
人間の頭は、普段はシステム1をベースに働かせつつ、必要に応じてシステム2を呼び出して仕事をさせるが、常時システム2を稼働させ続けることはできない。
システム1は常に稼働し続けていて、勝手に都合の良い判断をし、システム2を前に出させまいとする。
また、疲れているとシステム2に仕事をさせようとしても、うまく動かなかったりする。
個人的な経験からは、焦っているとシステム2で思考することは難しい。
先へ先へ手を動かしたいという衝動をいったん抑え込み、適度な緊張感と冷静さのバランスが取れているような状態が理想だと思っている。
ちなみに事務所で仕事をしているときにシステム2に切り替えたいときには、いったん手を止めてお手洗いに立ったり、水を飲みに立ったり、無理矢理にでも手を止めてクールダウンする時間を入れることが多い。
時間に追われると、システム1で勝負することになる
記述で大コケするときは、「ヤバい!時間が無い!書けることだけでも何か書いて部分点を稼ごう」という追われる者の気持ちになっていることが多い(体験談)。
そうすると、システムで2なくシステム1で闘うことになる。
そうすると自分の場合、たいてい落とし穴に落ちる。
土地家屋調査士試験にせよ司法書士試験にせよ、システム1で解いたら落ちるように記述の問題は作ってある、と思っている。
両試験の午後問題は、システム1駆動でも余裕で解けるくらいの熟練か、「落ちついていれば解ける」はずの問題を「落ちついて解ける」能力か、どちらかが要求されている試験だと思う。
いずれかの能力があれば、きっと実務でやっていけるだろうと思うし、逆にいずれの能力もなければ、実務に出ても厳しいということだ。
時間配分を決めておくことと、現場での時間コントロールが重要
事前に自分が択一1問何分くらいかかるか、土地・建物の記述問題を解くのにどれくらいの時間がかかるのか、どういう時間配分にするのがベストのパフォーマンスに繋がるのか、答練等で調整しておいた方が良い。
各問題のボリュームによって現場で多少の調整は必要だろうが、20分も30分も動かすことができるものではない。
精々、5分とか10分とかじゃないだろうか。
それから、決めていた時刻をオーバーしそうな時の判断も磨いておいた方が良い。
今取り組んでいる箇所に引き続き取り組んでオーバー分を後のパートで取り戻すを目指すのか、今やってるとこを切り上げて次に移るのか。
自分の場合は、惰性で解き続けるより損切りして全体のバランスを整えた方が良い結果になることが多い印象。
逆境で燃えるタイプなら、解き続けて自分を追い込むことが有利になることもあろう。
実戦での実績を踏まえて、自分の性向を把握しておくことも大事だと思う。
ちなみに自分は令和3年の土地家屋調査士試験では下記の時間配分を目標とした。
択一末尾から順に解けるところまで 10分
建物記述 申請書記入まで 20分
建物記述 作図 30分
土地記述 申請書記入まで 20分
土地記述 作図 25分
択一不登法 25分
択一民法 10分
スキップした問題等 8分
マークチェック等の最終チェック 2分
令和2年の受験では択一基準点を越えられなかったのと、令和3年試験の直前期、択一過去問をある程度解けるようになったつもりで臨んだ答練でも択一基準点ギリギリが多かったことを踏まえて、令和3年の戦略としては択一には多目に時間を振った。
土地記述より建物記述の方がマシなことが多いので、建物で得点をできるだけ稼ぎ、土地は解ききれなくても致し方無い、と考えてこの時間配分で挑んだ。
結果、令和3年の択一は基準点超えたと思っているので、目的を踏まえた時間配分としては良い配分だったと思う。
来年も受験の可能性が高いので、ここから調整していく。
自分にとって一番の近道を考える
①十分なスキルがあり、短い時間で普通に解き終えられる(理想)
②時間配分を考えて、落ちついて解けるだけの時間を確保して問題に臨める
③時間が無くても、焦らずにシステム2を呼び出して解ける
のどれかの能力が必要になると思う。
自分は②志向なのだが、自分の負けパターンとしては、問題そのものに負けるというよりは勝負に入る前にもう負けていることが多い。
例えば、建物記述に時間をかけ過ぎてしまい、土地記述に入る段階で時間不足が明白で心が折れるなど。
令和3年度の本試験でも、土地の記述に取り組んでいて、「ああ、これは呑まれているな、何とか落ち着けないものか」と思ったものの、「手を動かしたい、早く結果を出さなければ」という先を急ぐ気持ちを抑えつけることはできなかった。
わかっていても、頭のモード制御は難しい。
そこから立て直すのに、例えば深呼吸なり、気持ちを落ち着けられるキーフレーズなり、何らかのルーチンで③のスキルも身に付けられたら、もう少し戦闘力が上がると思っている。
もし度胸があるなら、試験官に申し出てトイレに立つのは良い策だと思う(自分は度胸が無いので、この策はやめておく)。
編集後記
実務に出てからも、時間に追われるような環境はしょっちゅう生じる。
そういう面でも、司法書士試験も土地家屋調査士試験も実務家登用試験だと思う。
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[読書]ファスト&スローを読み始めました – 司法書士はシステム2のみをフル稼働させるべき仕事か? | 流れるような一日を
ファスト&スローを20%ほど読み進めた時に書いた感想。
この本は上下巻あって長いので、システム1とシステム2を学ぶためだけにこの本を読む必要は無いと思う。
とはいえ、もっとサクッと読めるあなたの脳のしつけ方などでシステム1とシステム2の概念や特徴を知っておくと、今後の人生にきっと役立つだろう。
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